『 あたしんち ・ ぼくんち ― (2) ― 』
ぷぅわん ・・・ !!!
JRの電車は警笛をひとつ鳴らすと ごうごうと二人の前を通り過ぎていった。
ばさ〜〜〜 ・・・・ 茶髪と黒髪が煽られ 後ろへとなびく。
「 ・・・ はぁ〜〜〜〜〜 やっぱさあ〜 ホンモノの音はひとあじチガイますな 」
「 うん! りんじょうかん がずっとましますな。 」
「 はくりょくまんてん ですね。 」
「 そうであります。 」
おとなぶった言い回しをし ( 身近な老人たちの会話を拾い覚えた )
大仰に感嘆のため息をついてみせているが ・・・ タダのチビ達である。
踏切のぎりぎり線路に近い場所で 小学生のオトコノコが二人、 じ〜〜〜〜っと
行きすぎてゆく電車をみつめている。
「 なあ 上りが3分おくれているよな〜 」
黒髪の方が腕時計を見ている。
「 3分か。 きょようはんい内だな〜 どこかでばんかいできるね。 」
「 らっしゅ時前だからね〜 」
「 さいきん じこくひょう通りじゃないね。 」
「 うん。 ちえん が多いね〜〜〜 」
テツな二人にとって近所の踏切でローカル線の電車を眺め あ〜だこ〜だウンチクを
垂れ合うのが 今最高に楽しい。
「 あ〜〜 いっかいしゃりょうこ ( 車輛庫 ) とかみたいな〜〜 」
「 だね! あと ・・・ てつどうはくぶつかん また行きたいよな 」
「 うん!!!! 冬休みに行きたいよな〜〜 」
「 な〜〜〜 」
そろばん塾の帰り道 オトコノコ二人はの〜〜んびり歩いている。
話題はもっぱら < テツ > で、と言ってもまだともかくいろいろな種類の電車を見たい!
という程度のレベルらしい。
最近はお互いに写真集なんかを見せあって ごそごそやっている。
「 あ〜〜〜 そうだ。 すぴかちゃんさあ〜 なんかヘンな顔 してたね? 」
「 そうだっけ? 」
「 ウン。 な〜んかあ ・・・ コワい顔だったよ 」
「 ・・・ いつもコワいじゃん 」
「 そ〜いうのともちがくて ・・・ お腹イタイのかな〜 」
「 ??? ・・・ あ〜〜 お母さんがど〜の こ〜のって言ってたけど ・・・ 」
「 あ 叱られたのかあ 」
「 かも ・・・ 僕 よく知らない 」
「 ふ〜ん・・・ なあ、すばるんちのお母さん、おこるとコワい? 」
「 コワい! 」
「 僕んちといっしょだ〜〜♪ 」
「 いっしょだね〜〜♪ 」
「「 じゃ〜な〜〜〜 」」
国道を渡って 手を振り右と左に別れた。
「 ふ〜んふんふんふ〜〜ん♪ きょう〜〜のゴハンはな〜〜にっかな♪ 」
島村さんちのすばるクンは のんきにハナウタなんぞを歌いつつ歩いてゆく。
ふと。 さっきの しんゆう君の言葉と一緒に ―
ねえねえ! アタシ達のお母さんはホントのアタシ達のお母さんだと思う???
出がけに すぴかがきんきん言ってた声がふ・・・っと思い浮かんだ。
「 お母さんはホントのお母さん?
あはは ・・・ すぴかってば〜〜〜 ばっかみたい〜〜 あはははは・・・・ 」
すぴかの双子の片割れは ま〜〜〜〜ったく問題にもしていなかった。
「 僕ってば ちびっちゃいときから < お父さんのしゅくしょう版ね〜 > って言われるし。
すぴかだってお母さんと似てるじゃ〜〜ん。 お母さんの方がず〜〜〜〜〜〜っと
優しいしキレイだけどさあ あ キレイの落ち葉〜〜〜 」
真っ赤に染まった桜の葉を 黄色の銀杏のを拾った。
「 これ〜〜 お母さんにお土産♪ セーターに留めたらカワイイよね〜〜 」
なかなか繊細な心遣いのできる少年 ・・・ らしい。
( いや ・・・ 親父譲りの タラシ資質 かも ・・・ )
「 おみやげ おみやげ〜〜〜っと・・・ おか〜〜さ〜〜〜ん ♪ 」
珍しく最後の数メートルはダッシュで家までの急坂を上り切った。
「 ただいま ただいま た っ だいま〜〜〜〜 ♪ 」
門からの < ただいま > 音頭?で 当家の長男坊主が帰宅したことが
家中の人にわかっているだろう。
「 ただ〜〜〜いま〜〜〜〜 おか〜さ〜ん 」
「 お帰りなさい すばる〜〜 」
「 おか〜〜さ〜〜ん おみやげあるんだ〜〜 」
すばるはスニーカーをきっちり脱ぐと とてとて・・・キッチンに向かった。
「 おか〜〜さ〜〜〜ん 」
カタン ― ドアを開けても まず最初は < おかあさん > なのだけど・・・
「 お帰り、すばる。 ソロバンはどうだった? 」
お母さんはエプロンで手を拭き拭きすばるを迎えてくれた。
「 えっへっへ〜〜〜 おあかさ〜〜ん♪ 」
ぴと♪ すばるはお母さんにくっついた。
「 あらら・・・ すばる、もうすぐ晩御飯よ 」
「 えへへ ・・・ お母さん、これ〜〜おみやげ〜〜〜 」
「 なあに? まあ〜〜 キレイな葉っぱねえ〜〜〜 」
すばるが差し出した < おみやげ > に お母さんは大にこにこだ。
「 坂道でひろったんだ〜 お母さん、セーターにつけて・・・ 」
「 あら ホント! これ素敵なブローチになるわ ねえ すぴか どう? 」
フランソワーズは息子からのプレゼントを セーターに差してみせた。
「 わあ キレイ お母さん ・・・ 」
すばるはうっとり眺めている。 落ち葉じゃなくて お母さんを、だ。
「 ・・・ ウン お母さん よくにあうよ〜〜 」
でもさ。 アタシだってキレイな落ち葉、拾おうと思ってたんだけどな〜〜
すぴかはこっそり口の中で言った。
「 こんなに素敵なアクセサリー、初めてよ。 ありがとう すばる〜〜 」
「 えへへ・・・ 」
ぴと。 すばるはまたお母さんにひっつき虫をした。
…! やっぱり! 甘えん坊の弟 お母さんにべったり なんだ!
やっぱり あのにゃんこの家族とウチはおんなじ ・・・
・・・ってことは。 やっぱ アタシ達は捨てられっこ・・・?
「 まあまあ いつまでも甘えん坊さんねえ〜〜 すばるってば・・・
さ 晩御飯の用意、二人ともお手伝いしてくれるかしら 」
「 「 うん !! 」 」
すぴかもすばるも元気に返事をした。
「 おか〜〜さん 今晩 なあに。 」
「 お魚よ〜〜〜 獲れたてのおいしそうな鰈があったのよ。 すぴかさん、お魚食べたかった
のでしょう? 」
「 え?? あ ・・・ ああ うん ・・・ 」
「 あなたたちには一番おいしそうな切り身をね さっとフリッターにしてみたの。 」
「 わ ・・・ いい匂い〜〜〜 」
すぴかはおハナをくんくんさせた。
「 おかあさん〜〜〜 さらだは? ぼく、きゅうり、切れるよ! 」
「 まあ ありがとう すばる。 それじゃ お野菜は 〜 」
― あ。
すぴかは大切なことに気が付いた。
あなたたちにはいちばんおいしそうなとこ って!
にゃんこの母さんと 同じじゃん!
「 お母さん! お母さんは ー お魚さんのどこをたべるの? 」
「 きゅうり と トマトと。 あ マカロニが少し残っているからマカロニ・野菜サラダ にしよっか 」
「 わ〜〜〜♪ とまとも僕が切る〜〜〜 」
「 ね! お母さん お母さんってば〜〜 」
すぴかはお母さんのエプロンをゆさゆさひっぱった。
「 なあに すぴかさん。 」
「 だ〜〜から〜〜 お母さんはぁ お魚のどこ たべるの!?? 」
「 え? ・・・ ああ 残りのトコをトマト味で煮込むわ。 」
「 ・・・ やっぱり ・・・ 」
「 え なあに? 」
「 ううン なんでも ないよ。 アタシ、お皿 出すね 」
すぴかは きゅ っとお口を結び食器棚の方に行った。
ああ ・・・ やっぱり だ・・・!
お母さんは 一番オイシイとこはアタシ達に食べさせて
自分は残りを食べる んだ・・・
やっぱ ・・・ にゃんこの母さんと 同じなんだ
やっぱ ・・・ ホントのお母さんじゃ ないんだ ・・・
その晩は お父さんはやっぱりお仕事で遅かったので おじいちゃまとお母さん、
そしてすぴかとすばるで晩御飯をたべた。
お父さんが一緒でないのは淋しいけど 晩御飯はいつも賑やかだ。
「 ほう ・・・ これは何の魚かね? 身がほろほろ崩れて美味しいなあ 」
おじいちゃまはいつもきちんとお母さんのお料理について感想を言う。
「 あ よかった〜〜 お気に召しました? これ 鰈なですの。 」
「 ほう〜〜〜 鰈か。 あっさりした身にソースの味が染みて美味いよ。 」
「 ありがとうございます、 魚やさんにちょうど朝獲れたばかりのが並んでいて ・・・
バター焼きにしてもおいしいよ!って教わりました。 」
「 ほうほう なるほどなあ〜 煮付けも美味いがこれもまた・・・うむ うむ・・・ 」
「 嬉しいわ〜〜 ねえ すぴかさん、お魚の味、どう? 」
「 ・・・ オイシイ。 」
「 僕〜〜〜 こうやってね〜〜 マカロニさらだ をかけてたべるんだ〜〜
こうやるともっとオイシイ〜〜 」
すばるのお皿の中身は なんもかんも一緒くたになっていた。
「 あらら ・・・ すばる、それじゃ猫さんのご飯みたいよ 」
「 オイシイからいいの〜〜〜 」
「 でもお行儀が悪いわ。 あなたは猫さんじゃないんですからね。 」
「 だってぇ〜〜〜 」
「 さ 今日はもういいから。 今度からはまぜこぜ だめですよ? 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
「 全部食べてね。 お野菜残しちゃだめよ。 」
「 ・・・ まかろにと一緒ならたべる。 」
「 食べてね。 すぴかさんは? ちゃんと食べたの。 」
「 ウン。 これ アタシも好き。 」
「 あら よかったわあ〜 あら うふふ・・・ すぴかさんもお腹ぽんぽこりんね 」
「 え ・・・ あ う うん 」
「 オイシイお魚だったわね〜〜 」
お母さんはおじいちゃまとにこにこしている。
すぴかも 美味しかった〜〜〜って お腹をぽんぽんしてみたが ― あ。
大事なことを聞かなくちゃ!
「 お母さんっ お母さんは ?? 」
「 はい? なにが 」
「 だ〜〜から〜〜 お母さんも オイシイお魚、食べた? 」
「 ええ いただきましたよ。 大きな鰈を二匹買ってきたのですもの。
お母さんたちは アラも一緒にトマト味で煮込んだの。 」
「 < あら > ってなに。 」
「 お魚のアタマとかホネとか ・・・ 美味しい身以外のところのことよ。 」
オイシイ身 いがいのトコ ・・・?
― やっぱり。 ウチのお母さんは ・・・
せっかくほんわかしていたのに また咽喉の奥がきゅ・・っとなってしまった。
「 ゴチソウサマ。 アタシ ・・・ お庭で遊んできてもいい 」
「 すぴかさん、 もうお外は真っ暗よ? 寒いし ・・・
それにご飯の後はすこしゆっくりしなければダメ 」
「 あ ・・・ う うん 」
「 わ〜〜〜〜〜〜〜い♪ 僕 〜〜 ここで わふ♪ ゆっくり〜〜〜 」
すばるはお箸を持ったまま、お母さんのお膝にごろにゃん〜〜した。
「 あ これこれ・・・ ご飯中でしょう? ふざけてはダメよ。 」
「 僕〜〜〜 もうゴチソウサマする〜〜〜 」
「 じゃ ほら・・・ すぴかさんも一緒に ご馳走様でした 」
「「 ゴチソウサマ〜〜〜〜 」」
「 僕! あにめ みる 〜〜〜〜 」
すばるは居間にとんでゆく。
「 アタシ ・・・ あの お母さん。 お手伝いするよ〜 」
「 まあまあ小さなボランティアさんねえ〜〜 じゃ まず食器をシンクに運んでね。 」
「 は〜〜〜い♪ 」
すぴかは最高にいいお返事をしてから お母さんをじっと見つめた。
「 お母さん。 」
「 はい? あ 洗うのはいいわ、TV見たいのでしょう? 」
「 ウウン ・・・ あの さ お母さん 」
「 はい なあに。 」
「 ウン。 あの ・・・ アタシたちのお母さんになってくれてありがとう。 」
「 ??? ― すぴかさん。 具合が悪いの? お熱でもあるのかしら 」
白い手がす・・っとすぴかのおでこに伸びてきた。
「 アタシ 元気だよ。 」
「 そう? それならいいけど ・・・ あ 食器ありがとう。 」
「 ウン ・・・ 」
「 ほらTV見てていのよ? すばると一緒に 」
「 ウン ・・・ 」
すぴかはちょこっと頷いてすたすたリビングへ行った。
「 ??? なにかあったのかしら?? すぴかがこんなに静かだなんて ・・・
お母さんになって・・・って当たり前のことじゃないねえ? 」
フランソワーズは娘の発言における微妙なニュアンスを 理解できていなかった。
彼女は本当に日本語が上手になっていたけれど やはり<外国人> なのだ。
なんとな〜〜く漂う抑揚の変化とか 些細な助詞の使い方の違い は解らない。
すぴかの言い方にもモンダイあり、なのだが・・・まあ それは無理もないことだろう。
リビングではすばるがTVに齧り付いていた。
「 すぴか〜〜〜 もう始まっちゃってるよ〜〜〜 」
「 あ ウン ・・・ ねえ すばる。 」
「 なに。 」
「 あのさあ ・・・ お母さん さ〜 」
「 うん そうだね〜〜 」
「 ? ちょっと〜〜 きいてよっ 」
「 あ〜〜 そうだね〜〜 」
すばるの目は完全にTVに張り付いていて すぴかのことなど見てもいない。
「 もう! ・・・ いいよ〜〜だ。 やっぱアンタとは他人なんだ きっと! 」
「 すぴか〜〜 うるさい〜〜〜 」
「 もうっ! 」
ぽこん、と一発お見舞いして すぴかはTVの前の特別席から離脱した。
「 いって〜〜〜〜〜〜〜 」
「 ふんっ ! 」
すぴかはとっとと子供部屋に戻ることにした。 いつもはなとな〜くお母さんの側にいるのに・・・
もう〜〜〜 知らないっ !
・・・ あ もしかして。 おじいちゃまにきいてみようかなあ・・・
けど なんて聞く?
「 お母さんは アタシ達のお母さん ですか 」
・・ う〜〜〜 なんか ヘン??? じゃあ じゃあなんて言えばいいのかなあ〜
つるんとしたぴかぴかの額にうねうねシワを寄せ、彼女は真剣に考えこむ。
「 アタシ達の本当のお母さんはお母さんですか ・・・ う〜〜〜 ヘンだよね? 」
国語は大好きで得意なのだが どうも上手い言葉がみつからない。
「 〜〜〜〜 なんていえばいいのかなあ〜〜 」
「 うん? 取り合えず口にだしてみればどうかな? 」
「 わ!?!?? あ ・・・ あ 〜〜 おじいちゃま ・・・ 」
突然 答えが返ってきて すぴかはホントに跳びあがるほど驚いてしまった。
「 はぁ〜〜〜 びっくりぃ 〜〜〜 」
「 びっくりはワシもだぞ? 階段の途中で立ち止まってぶつぶつ言っておるのだもの・・・
劇かなにかの練習かね? 」
「 え!? あ ・・・ げ 劇 じゃあ ないデス ・・・ 」
「 ほう? それなら・・・ 国語の宿題かい? 詩などの暗唱をしていたのかな 」
「 し ・・・ じゃあないの。 あの〜〜ね おじいちゃま。 」
「 なんじゃな。 」
「 すぴか ・・・ しつもん してもいい。 」
「 おお いいよ。 なにかな〜〜 算数の宿題かな 国語の作文かな? 」
「 そじゃなくて ― あの ね。 すぴかのお母さん さ。 すぴかのお母さんだよね? 」
「 ― う ん ??? 」
博士の白い眉毛が ぐるう〜〜んと吊り上がった ・・・ つまり博士は目をまん丸にしたのだが・・・
「 ね! おしえて〜〜 お父さんさ、にゃんこの家族はウチとおんなじ〜っていったし。
だから アタシ達のお母さんもお母さんになってくれたお母さんなの?? 」
「 ??? にゃんこ?? ・・・ ああ さっきPCで見ていた話のことかい。 」
「 そ! なかよし母さんにゃんことチビにゃんこ達のお話。
お父さんもお母さんも見てね、 ウチとおんなじね〜って。 だから ・・・ 」
「 ははあ ・・・ わかったぞ、すぴかの言いたい事が・・・
もしかしたら すぴかの母さんもあの猫の母さんと同じで、産んでくれた母さんじゃないのか??
って心配しているのかな。 」
「 ・・・ ウン。 ・・・そう なの? 」
すぴかは大きな碧い瞳を きっかり開いてまっすぐに博士を見つめている。
ああ。 この子は真実をはっきりみつめられる勇気があるな
ほう ・・・ なんとまあ・・・気性まで母親そっくりの子じゃのう・・・
「 すぴかや。 すぴかは すぴかのお母さん が好きかい。 」
「 うん 大好き!! 」
「 ほうほう それならばな〜んにも問題はないさ。
あのチビ猫さん達も < アタシ達の母さん > が だ〜〜いすき だって言ってたよ。」
「 ウン ・・・ 」
「 だ〜い好きとだ〜い好きが親子なんだもの それが一番じゃよ。 」
「 そ そう?? 」
「 そうさ。 ちょいとお前の父さんをちょっとばかりとっちめとかないといかんが ・・・
これはワシがはっきり言うぞ。 お前の父さんと母さんは お前たちをこの世に
送りだすために巡りあい結婚したんだよ。 」
「 ホント? 」
「 ああ 本当さ。 だけどな一番大切なのは、 親子でだ〜〜い好き! なことだよ。
父さんは あの猫の家族のそんなところが < ウチと同じ > って言ったのさ。 」
「 そっか〜〜〜〜〜 」
「 そうだよ。 それにすぴかの眼は母さんと同じ色でそっくりだし。
すばるの後ろ姿を見てごらん? 父さんのミニミニ版だ。 」
「 あは・・・ ソレ、アタシも知ってる〜〜〜 とてとて歩くトコとかそっくりだよね〜〜
なんか〜〜 二人とも走るのトロいし〜〜 」
「 走るのが ・・・ トロい? あ は ・・・そうかも なあ 〜〜〜 」
<制作者> として、博士はちょっとばかりショックだった。
走るの、 トロいし 〜〜〜
・・・ すぴかの言葉が博士の心にくわ〜〜ん〜〜 と反響していた。
「 う〜〜〜ん♪ なんかすっきりしたよ〜〜 おじいちゃま。
あ アタシ〜〜〜 やっぱアニメみ〜ようっと。 す〜〜ばる〜〜〜 」
たちまちいつもの元気印となり、彼女はだだだ・・・っとリビングに引き返していった。
うむ ・・・ うむ〜〜〜〜〜
乙女心とは かくもフクザツなのだなあ・・・
博士はふか〜〜〜くため息をつき、孫娘のぴんぴんはねるお下げを眺めていた。
バンッ! リビングのドアが勢いよく開く。
「 お母さんっ !!! 」
「 ― すぴかさん。 ドアが痛いって泣いてますよ。 」
座って洋ナシの皮を剥いていたお母さんは じろっとすぴかをにらんだ。
「 ・・・ あ ごめんなさ〜い ・・・ ドアさん ごめ〜〜んね〜〜
あのね あのね〜〜〜 聞いて! 」
「 はい なんですか。 」
「 えっと あのね! お母さんは! アタシのお母さんだよねっ !?
」
「 はい そうですよ。 ・・・ なんでそんなこと、聞くの。 」
「 なんででも ・・・ アタシ達のほんと〜〜のお母さんだよね? 」
― カタン。 お母さんは黙って立ち上がると すぴかの前にしゃがみ込んだ。
そしてすぴかの目をじ〜〜〜〜っと見て とてもとても真面目〜〜な声で言った。
「 すぴかさん。 いい加減になさいね。 しつこいわよ?
いい? お母さんは! いえ お父さんとお母さんは! すぴかとすばるの
ほっんと〜〜のお父さんとお母さんですっ。 わかりましたか。 」
「 ・・・ ワカリマシタ 」
すぴかはすご〜〜〜く真剣な顔で こっくり頷いた。
うわ〜〜〜〜 こわ〜〜〜い 〜〜〜〜♪
えへへへ ・・・ こんなふうに怒るのって
あははは〜〜 アタシのお母さんだあ〜〜
きゃい〜〜〜 こ〜わいよ〜〜〜〜ぉ♪
真面目〜〜〜な きゃ コワい〜って顔までしてすぴかはお母さんに叱られていたけれど。
あはは〜〜〜 このカミナリ〜〜〜
こ〜れはアタシのお母さんの とくべつ なんだ〜〜
って 心の中では わ〜〜〜〜い♪ な気持ちだった。
なんでコワい顔してたかって? ・・・ そうしてないと にまにま笑いだしそうだったから!
「 わかったのなら この話はここでお終い。 いい? 」
「 ハイ。 」
「 宜しい。 じゃ アニメみるの? 先にお風呂に入る? 」
「 う〜〜〜ん とお・・・・? 」
「 ふんふんふ〜〜ん♪ らりらりらりらあ〜〜♪ 」
「 すばる? あら アニメは? 」
「 終わっちゃったよ 僕 お風呂はいろっかな〜〜〜 」
すばるはとてとてやってきて お母さんのお膝ににゃんこみたくころ〜〜んとした。
「 あ す〜ばるってば甘ったれ〜〜〜 たれたれ〜〜〜 」
「 いいもん♪ 僕のおか〜さんだも〜〜ん 」
「 あ! アタシのお母さんだよっ ! 」
ど〜〜ん ・・・ すぴかもお母さんのお膝にダイブした。
「 あらら・・・ もう〜〜どうしたの、二人とも〜〜〜 」
お母さんはこまった声をだしつつも ころころ笑って二人をしっかり抱き留めてくれた。
「「 わ〜〜〜い ごろにゃああ〜〜ん 」」
「 もう〜〜 ウチのチビ猫たちはあ〜〜〜 」
お母さんも一緒になって ころ〜〜んって絨毯の上に倒れた。
「 にゃあああ〜〜ん 」 「 にゃあ〜〜お〜〜〜」 「 にゃいにゃい〜〜 」
三人はもう、ホントに小さな漁港の仲良し親子猫になりきってころんころ〜ん・・・
もう猫団子状態だ。
「 ほうら〜〜〜 ウチのイタズラ仔猫たちめ〜〜 」
「 きゃあ〜〜〜 お母さんにゃんこ〜〜〜 」
「 にゃにゃにゃ〜〜〜ん♪ 」
― ガタン。 リビングのドアが開いた。
「 お〜〜や いつの間にウチのリビングにのら猫家族が住み着いたのかな〜〜 」
転げまわっている三人は 思わず動くのを止めた。
「「 お父さ 〜〜〜〜〜〜〜〜ん 」」
「 あら ジョー お帰りなさい。 早かったのね。 」
「 ウン ウチでゆっくりしたくて大急ぎで仕事片づけてきたのになあ〜〜
玄関開けても聞こえてくるのは にゃ〜〜〜ん なんだもんなあ〜 」
「 うふふ・・・ごめんなさいね。 早く帰ってきてくれてうれしいわ。 」
お母さんは 猫団子 からするりと抜け出すとお父さんに抱き付いた。
「 えへ・・・やっぱきみのキスがないとさあ〜〜 ウチじゃないよ〜 」
「 んんん〜〜〜〜〜♪ 」
お父さんとお母さんは あつ〜〜〜いキスを交わしているが 子供達は生まれてからず〜〜っと
見慣れた光景なので < あったりまえ > だと思っている。
「 ね〜〜〜〜 ね〜〜〜 お父さん〜〜〜 僕ね 今日ね JR見ててね〜〜 」
「 お また観察会をしたのか、 発見レポート どうぞ! 」
「 ウン! え〜〜〜 本日のごご○時○○分の上りれっしゃは〜〜 」
「 ね! お父さん! 聞いてもいい? 」
「 すぴか〜〜 僕がさき! 」
「 アンタの話、長いんだも〜〜ん ちょっとだけまってよ〜
ねえ ねえ お父さんってば。 お父さん、あの母さんにゃんことチビにゃんこ達のお話、
おぼえてる? 」
「 にゃんこ? ・・・ あ〜〜〜 ゆうべPCで読んだ話かな? 」
「 そ! お父さんってば ウチみたいだって言ったでしょ。 」
「 そうだっけか? ・・・ あ〜 確か美人な母さん猫とカワイイ姉弟仔猫だろ?
お転婆姉さん猫と甘ったれ弟猫で〜〜 もうウチそっくりじゃないか。 」
「 そ〜なんだけど ・・・ でもあの母さんはあのコ達の母さんじゃないって
かいてあったの・・・ 」
すぴかがまたまた微妙な言い方をしている。
「 ? ああ ? 」
ジョーはチラっと細君の方を見、彼女の表情から全てを汲み取った。
彼は彼の娘を手招きした。
「 すぴか。 お父さんはね あの猫たちのお話の続きを知っているよ。 」
「 え?? つづきがあるの?? 」
「 うん。 あの美人の母さん猫にはね、カッコイイ雄猫が恋をして・・・それから
彼はず〜〜〜っと母さん猫とチビ猫たちを護って皆と仲良しでくらしましたとさ。 」
「 わあ〜〜〜 ウチみたい〜〜〜 」
「 だ ろ? 」
「 大好き と 大好き が一緒なら皆シアワセなのさ。 」
「 おじいちゃまもね〜〜 おんなじコト、言ったよ! 」
「 そうだろ? だって本当のことだもの。 」
「 そっか〜〜〜 」
すぴかは ぽ〜〜んとお父さんの腕にぶら下がった。
「 あ〜〜〜 僕も 僕も〜〜〜 」
すばるもジョーの脚にくっついてきた。
「 あは ・・・ 重いよ〜〜 二人とも〜〜 」
重いよ〜〜なんて言いつつも わっせわっせと遊んでくれるお父さんに すぴかもすばるも
仔猫みたいにしがみついて大喜びだ。
「 さあさ あなた達〜〜 お父さんにご飯を食べさせてあげて〜〜 」
ついにお母さんが助け舟を出してくれた。
「 そ〜だな〜〜 ああ〜〜〜 お父さん、お腹ぺこぺこで目が回るよ〜〜 」
「 お父さん〜〜 今日のご飯ね、おいしい〜〜お魚だよ! 」
「 おいしいおさかなと〜〜 まかろに・さらだ だよ〜〜 さらだのね〜 きゅうりも
とまとも〜 僕、きったんだ〜〜 」
「 へえ そうか〜 ああ 楽しみだなあ〜〜 」
「 それでね それでね〜〜 お父さんたちのお魚は 一等おいしいトコじゃないトコも
みんないっしょくたにしてトマト味 なんだって! 」
「 まかろに・さらだ といっしょくたにして食べるとおいしいよ〜 」
「 そうか そうか ・・・ ( いったい献立はなんなんだ?? ) 」
子供たちに纏わりつかれ、ジョーは仕事疲れも空腹も忘れて相好を崩しっぱなしだ。
「 ジョー、 用意できたわよ? ほら〜〜 あなたたち、お父さんはご飯です! 」
「 う〜ん 後でまた遊ぼうよ ね? 宿題は終わってるんだろ? 」
「「 うん 」」
「 よし、 それじゃお父さんは晩御飯食べてくるからな。 」
「「 うん♪ ここからみてる〜〜 」」
「 おう 見ててくれ〜 」
お父さんはにこにこ・・・食卓について晩御飯を食べ始めた。
子供たちは リビングでうろうろしていた。
「 あ 僕〜〜 お父さんに続き 話すんだ〜 」
すばるは電車の写真集を広げている。
「 ・・・ アタシ もう話ちゃったからいいや。 」
すぴかは珍しく大人しく座っている。
「 アタシ達のお母さんは ちゃ〜〜んとアタシ達のお母さんだったよ! 」
「 すぴかったら〜〜 お母さんとお父さんが僕たちのお母さんとお父さんだってこと、
あったりまえじゃ〜〜ん♪ 」
「 ウン♪ 」
「 ぐちゃぐちゃいってヘンなすぴか〜〜 どっかいたいの? 」
「 どこもいたくないよっ 」
「 へえ? だってさ〜 わたなべクンも心配してくれてたよ〜〜〜
すぴかちゃん お腹イタイのかなあ〜〜って 」
「 えへ・・・ わたなべクン や〜さし〜〜〜な ・・・ 」
「 ウン。 」
「 な んだって??? 」
「 あ お父さん。 もうゴチソウサマしたの〜〜 」
「 ああ ・・・ なあ すばる!? わたなべクンはすぴかに ・・・ 優しいのかい? 」
「 うん、やさしいよ〜〜 すぴかのこと、すきなんだって〜 」
「 あは アタシもわたなべクン すきだよ〜〜 」
「 僕も〜〜 」
「 な な なんだって〜〜〜〜 !? 」
ジョーの顔が突然真顔になった。
「 ジョー。 お友達だもの、当然でしょう? 」
「 あ ・・・ ああ そ う かも ・・・ しかしな! 」
「 小学生なのよ、三年生。 すぴかもすばるも わたなべクンも。 」
「 ・・・ あ ああ ・・・ 」
ジョーは 憮然として新聞を広げたが ― スキマからず〜〜〜っと子供たちを眺め、
すぴかの金色のお下げを見つめて そっと・・・ため息をついていた。
捨て猫だって! 今はちゃ〜〜んと家族を持ってるんだからな!
茶色毛の元・捨て猫クンは ふふん! と胸を張って愛妻と子供たちを見つめるのだった。
******************************* Fin.
******************************
Last updated : 12,02,2014.
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************ ひと言 ***********
ジョー君の 父親としてのカン? は正しかったネ♪
赤の他人の子にゃんの面倒をみてる母さんにゃんこの記事が
あんまり愛しくて暖かくて・・・ こんなハナシになりました。